不妊治療の「次のステップ」を考えるとき、大切にしてほしいこと

健康

はじめまして、医療ライターの水野彩香です。
産婦人科で8年ほど看護師として働いていました。

その後、自分自身が30代後半から不妊治療を経験することになり、タイミング法、人工授精、体外受精とステップアップしていきました。
治療を続ける中で「次のステップに進むべきかどうか」、何度も立ち止まって悩んだのを覚えています。

あの頃ほしかったのは、治療法の詳しい解説よりも「決断する前にどう考えればいいか」というヒントでした。
ネットで情報を調べるほど不安になる、という経験をした方も多いのではないかと思います。

この記事では、私自身の経験と看護師時代に見てきたことをもとに、次のステップを考えるときに大切にしてほしいことをお伝えします。
治療法の細かい説明というよりは、「どう考えて、どう選べばいいか」という視点でまとめています。

不妊治療の「ステップアップ」ってどういうこと?

不妊治療には、段階ごとに治療法を切り替えていく流れがあります。
一般的には、次のような順番で進んでいきます。

ステップ治療法概要
第1段階タイミング法排卵日を予測し、性交のタイミングを合わせる
第2段階人工授精(AIH)精子を子宮内に直接注入する
第3段階体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI)卵子を体外に取り出して受精させ、子宮に戻す
第4段階卵子提供第三者から提供された卵子を使って体外受精を行う

「ステップアップ」とは、今の治療法で成果が出ないときに、次の段階の治療に切り替えることを指します。

タイミング法は体への負担が比較的少なく、費用も抑えられるため、最初の選択肢として取り組む方がほとんどです。
ここで結果が出なければ人工授精に進みますが、人工授精の妊娠率は1回あたり5〜10%程度と言われています。
5〜6回を超えると妊娠率は横ばいになる傾向があるため、そのあたりが次を考えるタイミングになります。

体外受精・顕微授精になると、通院回数も費用も大きく増えます。
採卵のための注射や排卵誘発剤の使用、採卵手術、胚移植と、治療の内容自体がぐっと本格的になります。

年齢が高くなるほど、ステップアップの判断は早めになります。
30代半ばで約6か月、40代では約3か月でステップアップを検討するのが一般的な目安です。

ただ、これはあくまで統計的な目安です。
実際の判断は、検査結果やAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値、卵巣の反応など個々の状態を踏まえて主治医と相談しながら決めていくことになります。
ステップアップ治療の考え方については、神奈川レディースクリニックのサイトでも分かりやすくまとめられています。

次に進むか迷ったとき、整理してほしいこと

今の治療状況を客観的に振り返る

「あと何回やれば」という気持ちで治療を続けていると、今の自分の状況が見えにくくなることがあります。

主治医にあらためて聞いてみてください。
「今の治療法で妊娠できる可能性はどのくらいですか」「ステップアップを勧めるタイミングはいつですか」と。

私自身、体外受精を繰り返していた時期に、主治医から「次の選択肢も視野に入れてみましょうか」と言われて、はじめて冷静に状況を受け止められた記憶があります。
聞くのが怖いこともありますが、判断材料は多いほうが自分で選びやすくなります。
漠然とした不安のまま治療を続けるよりも、今の状態を正確に知ることで気持ちが楽になることもあります。

心と体の声に耳を傾ける

不妊治療は、通院のスケジュール調整、投薬による体調の変化、結果が出ないときの落ち込みと、負担が重なりやすい治療です。

「まだ頑張れる」と思い続けることが、必ずしもいい結果につながるわけではありません。
疲れを感じているなら、それは体と心からのサインだと思います。

たとえば、治療のことが頭から離れなくて眠れない日が続いたり、妊娠報告を聞くたびに自分を責めてしまったり、そういった状態が続いているなら、少し立ち止まってもいいタイミングかもしれません。

看護師時代、治療を一時的に休んだことで気持ちが整理でき、再開後に妊娠された患者さんを何人か見てきました。
休むことは後退ではなく、次に向けた準備期間になることもあります。
自分のことを後回しにしがちな方ほど、意識的に休む選択をしてほしいと感じています。

パートナーとの温度差に向き合う

治療への思いが夫婦の間でずれることは、珍しくありません。
「自分はもう少し続けたいのに、相手は消極的」「相手は前向きなのに、自分はもう限界」。
そういう声は、看護師時代にも何度も聞きました。

お互いの気持ちを否定せず、まず「今どう感じているか」を話し合う時間をつくってみてください。
治療の話をするときは、「どうしたいか」の前に「今、何が辛いか」から始めると、相手の状況が見えやすくなります。

治療を受けている側は体の負担が直接的にかかる分、つい「自分のほうが大変なのに」と感じがちです。
一方で、パートナー側も「自分にできることが少ない」というもどかしさを抱えていることがあります。
立場が違うからこそ、意識的に言葉にする時間が必要です。

必要であれば、不妊カウンセラーや心理士に一緒に相談するのも手です。
こども家庭庁の「不妊治療に関する取組」ページでは、全国の相談窓口(性と健康の相談センター)の情報が紹介されています。

「次のステップ」にはどんな選択肢がある?

体外受精・顕微授精へのステップアップ

人工授精で結果が出なかった場合、多くの方が検討するのが体外受精や顕微授精です。

体外受精は、排卵誘発剤で卵巣を刺激して複数の卵子を育て、採卵手術で取り出した卵子を体外で受精させる方法です。
顕微授精は、精子の数や運動率に課題がある場合に、1つの精子を直接卵子に注入して受精させます。
どちらも妊娠率は人工授精より高いですが、通院の頻度や体への負担も増えます。

2022年4月から保険適用の対象になり、窓口負担は原則3割になりました。
高額療養費制度を使えば、月の自己負担は一般的な所得層で約8万円程度に抑えられます。
保険適用前は1回あたり30〜50万円ほどかかっていたので、経済的なハードルはかなり下がりました。

ただし、年齢と回数に制限があります。

  • 治療開始時に43歳未満であること
  • 40歳未満の場合は1子につき最大6回
  • 40歳以上43歳未満の場合は最大3回

回数制限を超えた分は全額自己負担になります。
残り回数を意識しながら、主治医と一緒に治療計画を立てていくことが大切です。

自治体によっては、保険適用分の自己負担をさらに軽減する独自の助成制度を設けているところもあります。
東京都では2026年4月から助成制度が拡充され、保険診療の自己負担額の7割(上限15万円)を助成する仕組みが始まっています。
お住まいの地域の窓口にも一度問い合わせてみてください。

卵子提供という選択肢

体外受精を繰り返しても結果が出ない場合や、早発閉経、加齢による卵巣機能の低下などで自己卵での妊娠が難しい場合に、「卵子提供」という方法があります。

第三者の女性(ドナー)から提供された卵子を使い、パートナーの精子と体外受精させ、自分の子宮に移植して妊娠・出産を目指す治療です。
2020年に成立した生殖補助医療法により、卵子提供で出産した女性がその子の母親であると法律上も定められています。

日本産婦人科医会の解説ページによると、国内ではJISARTの倫理委員会による審査を経て実施する枠組みがありますが、条件が厳しいため、海外の提携クリニックで治療を受けるケースが多いのが現状です。

卵子提供は保険適用の対象外で、費用は全額自己負担になります。
エージェントを通じてプログラムを利用する場合、250万円前後からが目安です。
費用には渡航費や宿泊費が別途かかることもあるので、見積もりの段階でしっかり確認しておくことをおすすめします。

卵子提供のプログラムは、一般的にカウンセリングから始まり、ドナーの選定、海外クリニックでの採卵・受精、胚移植という流れで進みます。
渡航が必要になるケースが多く、治療全体で数か月の期間がかかります。

エージェント選びでは、以下のような点を確認してみてください。

  • カウンセリングが丁寧で、リスクやデメリットも含めてきちんと説明してくれるか
  • 費用の内訳が明確で、追加費用が発生するケースについても事前に説明があるか
  • 治療中の連絡体制がしっかりしていて、不安なときにすぐ相談できるか
  • 提携している海外クリニックの実績や安全性について情報が開示されているか

気になるエージェントが見つかったら、まずは無料カウンセリングを受けてみてください。
複数のエージェントを受け比べてみるのも手です。
担当者との相性や説明の仕方は、実際に話してみないと分かりません。
卵子提供エージェントの中では、モンドメディカルの評判やサービス内容をまとめたページが参考になります。

「治療を休む」「治療をやめる」という選択

ステップアップだけが「次のステップ」ではありません。
治療を休むこと、終了することも、自分で選んだ大切な一歩です。

周囲から「まだ若いのに」「もう少し頑張れば」と言われて悩む方もいると思います。
でも、治療を続けるかどうかは、他の誰でもなく自分たちが決めることです。

治療をやめたからといって、子どもを望む気持ちがなくなるわけではありません。
養子縁組や里親制度など、家族のかたちにはいろいろな選択肢があります。
「産む」以外の道を選ぶことも、前向きな決断です。

看護師として患者さんたちと接してきた中で感じたのは、「自分で選んだ」と思えるかどうかが、その後の気持ちの安定に大きく関わっているということでした。
誰かに言われたから続ける、誰かに言われたからやめる、ではなく、自分たちで話し合って出した答えなら、どんな選択でもきっと納得できます。

仕事との両立で使える支援制度

不妊治療と仕事の両立に悩んでいる方は少なくありません。
通院のための休みが取りにくい、上司にどう伝えればいいか分からない、という声もよく聞きます。

厚生労働省の「不妊治療と仕事との両立のために」のページでは、企業向けの助成金制度や「くるみんプラス」認定制度、「不妊治療連絡カード」の活用法などがまとめられています。
厚生労働省の調査によると、不妊治療経験者の約26%が治療と仕事を両立できずに離職や雇用形態の変更を経験しているそうです。

職場に治療のことを伝えるかどうかは個人の判断ですが、使える制度があることは知っておいて損はありません。

「不妊治療連絡カード」は、主治医に記入してもらって職場に提出することで、通院日の配慮をお願いしやすくなるツールです。
治療のことを詳しく話したくない場合にも、カードがあれば最低限の情報だけで状況を伝えられます。
厚生労働省のページからダウンロードできるので、必要であれば活用してみてください。

まとめ

不妊治療の「次のステップ」は、人によって全然違います。
体外受精に進む人もいれば、卵子提供を選ぶ人もいるし、治療を休む人もいる。
どれが正解かは、誰にも決められません。

私自身、ステップアップのたびに「本当にこれでいいのか」と迷いました。
振り返ってみて思うのは、完璧な答えを出そうとしなくてよかったということです。
そのときの自分たちにとって「これなら納得できる」と思える選択をする。
それで十分です。

焦らず、でも情報は集めておく。
そのバランスが、次の一歩を踏み出すときの支えになるはずです。

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