「いつかは手にしてみたい」多くのギタリストがそう憧れる、ハイエンドギター。美しい木目、吸い付くようなネック、そして、ひとたび弦を弾けば空間を支配する豊かな響き。しかし、その数十万円、モデルによっては百万円を超える価格を前に、「自分にはまだ早いのではないか」「果たしてその価値が本当に分かるのだろうか」と、一歩踏み出せずにいる方も多いのではないでしょうか。
こんにちは。ギター歴20年、元楽器店員で現在は音楽ライターとして活動している者です。私自身、数々のギターに触れ、そして多くのギタリストの悩みや喜びを間近で見てきました。その経験から断言できるのは、ハイエンドギターは決して「誰にでも必要な楽器」ではないということです。しかし、特定の目的を持つ人にとっては、他の何にも代えがたい「最高の相棒」となり得ます。
この記事では、プロの現場から趣味の世界、さらには意外な投資の側面まで、様々な角度から「ハイエンドギターは誰のための楽器なのか」を徹底的に掘り下げていきます。この記事を読み終える頃には、あなたにとってのハイエンドギターとの向き合い方が、きっと見つかるはずです。
ハイエンドギターとは?その定義と特徴
まず、「ハイエンドギター」という言葉の定義から確認しておきましょう。実は、この言葉に明確な基準はありません。しかし、一般的には価格帯やその作り込みによって、ある程度の共通認識が存在します。
そもそも「ハイエンド」とは何を指すのか
多くのギタリストが「ハイエンド」と聞いてまず思い浮かべるのは、その価格でしょう。一般的に、国産ブランドであれば20万円以上、海外ブランドであれば30万円以上のものがハイエンドギターと呼ばれることが多いようです。これは、多くのメーカーで量産モデルとは一線を画した上位機種がこの価格帯から登場するためです。
しかし、単に高価なだけではハイエンドとは呼べません。その価格に見合う、あるいはそれ以上の「高性能」を伴ってこそ、真のハイエンドギターと言えるのです。では、その「高性能」とは具体的に何を指すのでしょうか。
ハイエンドギターを構成する3つの要素
ハイエンドギターの卓越した性能は、主に以下の3つの要素によって支えられています。
- 厳選された希少な木材
ギターの音色の根幹をなすのが木材です。ハイエンドギターには、ボディやネックにマホガニーやローズウッド、エボニーといった、音響特性に優れ、かつ美しく希少な木材が惜しげもなく使用されます。これらの木材は、長期間にわたって適切に乾燥・管理され、ギターに最適な状態で使用されることで、豊かな鳴りとサスティン(音の伸び)を生み出します。 - 職人技が光るハンドメイド製造
量産モデルが効率を重視した機械製造が中心であるのに対し、ハイエンドギターの多くは、熟練した職人の手によって一本一本丁寧に組み上げられます。木材の選定から加工、塗装、最終的なセットアップに至るまで、すべての工程で妥協のない作り込みがなされることで、機械では決して到達できないレベルの精度と演奏性を実現します。例えば、国産ハイエンドメーカーの雄であるFreedom Custom Guitar Researchは、「100年保証」を掲げており、その品質への絶対的な自信がうかがえます。 - すべての音を拾い上げる高性能なパーツ
弦の振動を電気信号に変えるピックアップ、チューニングの安定性を司るペグ、弦の振動をボディに伝えるブリッジなど、ギターを構成するパーツも音質に大きな影響を与えます。ハイエンドギターには、これらのパーツにも一切の妥協がありません。各ブランドが独自に開発したカスタムパーツや、定評のある専門メーカーの高級パーツが採用され、プレイヤーの繊細なニュアンスを余すところなくアウトプットします。
プロの現場から見るハイエンドギターの必要性
では、プロのミュージシャンはなぜこぞってハイエンドギターを使用するのでしょうか。それは、彼らにとってギターが単なる「楽器」ではなく、自らの音楽を表現し、生活を支えるための「仕事道具」だからに他なりません。
なぜプロはハイエンドギターを選ぶのか
プロの現場で楽器に求められる最も重要な要素は、「信頼性」「表現力」「耐久性」の3つです。
- 信頼性: レコーディングやライブの最中に、チューニングが狂ったり、音が出なくなったりといったトラブルは絶対に許されません。その点、精密に作られたハイエンドギターは、常に安定したパフォーマンスを約束してくれます。
- 表現力: プロのギタリストは、ピッキングの強弱や指先のわずかな動きで、多彩な感情を表現します。ハイエンドギターは、その驚異的な応答性能で、そうした繊細なニュアンスを忠実に音に変換してくれるのです。
- 耐久性: 年間100本以上のライブをこなすようなプロの使用環境は、非常に過酷です。頻繁な移動や激しいステージングにも耐えうる堅牢な作りは、プロにとって不可欠な要素と言えるでしょう。
音楽シーンを彩るハイエンドブランドとアーティスト
現代の音楽シーンでは、数多くのトッププロがハイエンドギターを手にしています。例えば、Suhr(スウォー)やTom Anderson(トム・アンダーソン)といったブランドは、その卓越した演奏性とサウンドから、スタジオミュージシャンやテクニカル系のギタリストに絶大な支持を得ています。
また、多くのメーカーはトップアーティストとエンドースメント契約を結び、彼らの要望を反映したシグネチャーモデルを開発しています。これは、アーティストにとっては理想の楽器を無償または安価で手に入れられるというメリットがあり、メーカーにとっては自社製品の優れた広告塔となる、双方にとって有益な関係なのです。
趣味でギターを弾く私たちにとっての「価値」
プロの世界の話を聞くと、「やはりハイエンドギターは自分には縁のないものだ」と感じてしまうかもしれません。しかし、趣味でギターを楽しむ私たちにとっても、ハイエンドギターを持つことには計り知れない価値があります。
「良い音」がもたらす、計り知れないモチベーション
私が楽器店員だった頃、初心者向けのギターからハイエンドギターに買い替えたお客様が、数ヶ月後に見違えるほど上達して来店される、というケースを何度も目の当たりにしました。その理由を尋ねると、誰もが口を揃えてこう言います。「ギターを弾くのが、前よりずっと楽しくなったから」と。
ハイエンドギターが奏でる「良い音」は、ただ耳に心地よいだけではありません。それは、弾き手の感情にダイレクトに応え、イメージした通りの音が出てくれるという快感をもたらします。この「いつまでも弾いていたくなる」という感覚こそが、上達への何よりの近道なのです。難しいフレーズに挑戦する意欲が湧き、練習時間が自然と増え、結果として技術が向上する。このポジティブなサイクルを生み出す力こそ、ハイエンドギターが持つ最大の価値かもしれません。
有名ハイエンドギターブランドの世界
ハイエンドギターの世界は奥深く、国内外に数多くの魅力的なブランドが存在します。ここでは、代表的なブランドの特色を比較してみましょう。
| ブランドタイプ | 代表的なブランド | 特徴 |
|---|---|---|
| 海外ブランド | Paul Reed Smith (PRS), Suhr, Tom Anderson | 華やかなルックスとモダンな演奏性。ジャンルを問わず使える万能性が魅力。 |
| Fender Custom Shop, Gibson Custom Shop | 伝統的なモデルをベースに、最高の木材と技術で製作。ヴィンテージライクなサウンド。 | |
| 国産ブランド | Sugi Guitars, Freedom Custom Guitar Research, Ibanez (上位機種) | 日本人ならではの丁寧な作り込みと、安定した品質。比較的手に取りやすい価格帯のモデルも。 |
ハイエンドギターの購入を検討する際には、全国各地の信頼できる楽器店での試奏が重要です。特に、新潟でハイエンドギター専門の店舗を探している方であれば、地域に特化した情報も参考になるでしょう。
実際に、新潟では複数の楽器店がハイエンドギターを豊富に取り扱っており、試奏環境が整った環境で自分に合った一本を見つけることができます。詳しくは「新潟でハイエンドギターを購入するには?おすすめ店舗をご紹介」という記事が参考になります。
意外な側面?投資対象としてのハイエンドギター
ここまでは「弾く」という観点からハイエンドギターを見てきましたが、実はもう一つ、「資産」としての側面も存在します。特に「ヴィンテージギター」と呼ばれる古い年代のギターは、近年その価値が著しく高騰しています。
「弾く」だけではない、ヴィンテージギターという資産
なぜ古いギターの価値が上がるのでしょうか。その理由は、希少性にあります。1950年代から60年代にかけて作られたFenderやGibsonのギターは、その後の音楽史を築いた伝説的なサウンドとして神格化されていますが、現存する個体は年々減少しています。需要に対して供給が圧倒的に少ないため、その価格は驚くべきスピードで上昇しているのです。
ヴィンテージギターの価格動向に詳しい情報サイト「Relic Junkie」によると、モデルによってはこの20年で価格が3倍以上に跳ね上がったケースもあると言います。これはもはや単なる中古楽器ではなく、美術品やクラシックカーに近い、オルタナティブ投資の対象として認識され始めていることを意味します。
投資目的での購入はアリかナシか
では、投資目的でギターを購入するのは「アリ」なのでしょうか。結論から言えば、「慎重な判断が必要」となります。確かに、一部のモデルは今後も価値が上がることが期待されますが、すべてのヴィンテージギターの価格が上昇するわけではありません。年代やモデル、コンディション、オリジナリティなど、専門的な知識がなければその価値を正確に見極めることは困難です。
もし投資として考えるのであれば、信頼できる専門店で専門家のアドバイスを仰ぐことが不可欠です。安易な気持ちで手を出すと、価値の上がらない楽器に大金を投じてしまうリスクもあることを、心に留めておくべきでしょう。
初心者はハイエンドギターに手を出すべきではない?
この記事を読んでいる方の中には、これからギターを始めようと考えている初心者の方もいるかもしれません。「どうせなら最初から良いものを」と考える気持ちも分かりますが、私は個人的に「最初の1本」に高額なハイエンドギターを選ぶことには慎重であるべきだと考えています。
「最初の1本」に高額ギターは必要か
その最大の理由は、初心者の段階では、まだ自分の「好きな音」や「弾きたい音楽スタイル」が確立されていないことが多いからです。高価なギターを手にしたものの、後になって「自分のやりたい音楽には、もっと違うタイプのギターの方が合っていた」と後悔するケースは少なくありません。
また、ギターブロガーのアルペジ男氏も、自身の記事「無理して高いギター買う必要って本当にあるの」の中で、高額なギターを買っても、アンプの音作りなど他の知識や経験が伴わなければ宝の持ち腐れになる可能性があると指摘しています。まずは比較的手頃な価格帯のギターで基本的な技術や知識を習得し、自分の進みたい方向性が見えてから、次のステップとしてハイエンドギターを検討するのが、最も賢明な道筋と言えるでしょう。
それでも「最高のスタート」を切りたいあなたへ
もちろん、経済的に余裕があり、「最高のモチベーションでスタートを切りたい」という強い意志があるのなら、初心者がハイエンドギターを持つことを一概に否定するものではありません。その場合は、以下のポイントを意識して選ぶことをお勧めします。
- 汎用性の高いモデルを選ぶ: ストラトキャスタータイプや、2つのハムバッカーピックアップを搭載したモデルなど、幅広いジャンルに対応できるギターを選びましょう。
- 信頼できる店員に相談する: 自分の好きなアーティストや音楽ジャンルを伝え、客観的なアドバイスをもらいましょう。
- 実際に試奏してみる: 値段やスペックだけで判断せず、必ず実際に楽器に触れ、音を出してみてください。理屈では説明できない「フィーリング」が、最も重要な決め手になることもあります。
まとめ
ここまで、様々な角度から「ハイエンドギターは誰のための楽器なのか」を考察してきました。結論として、ハイエンドギターは以下のように、所有者の目的によってその価値が大きく変わる楽器であると言えます。
- プロミュージシャンにとっては… 最高のパフォーマンスを実現するための「究極の仕事道具」
- 趣味のギタリストにとっては… 音楽ライフを豊かにし、上達を加速させる「最高の相棒」
- 投資家にとっては… 将来的な価値上昇が期待できる「魅力的な資産」
そして、初心者にとっては… すぐに手を出すべきではないが、明確な目標が見えた時に目指すべき「憧れの存在」と言えるでしょう。
高価なものが必ずしも良いものとは限りません。しかし、ハイエンドギターには、価格以上の価値と、それを手にした者だけが味わえる特別な喜びがあることもまた事実です。この記事が、あなたが自分にとっての「最高の1本」と出会うための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
出典
本記事の執筆にあたり、以下の情報を参考にいたしました。
