「感じはいいんだけど、大事な仕事はまだ任せにくいんだよね」。
新人研修を担当していると、配属先の上司からこんな声を聞くことがあります。
はじめまして、小野寺真帆です。
百貨店の外商部で9年間お客様を担当し、いまはIT企業の人事部で新人研修やマナー研修の企画をしています。
外商に異動した最初の年、先輩から言われた言葉をいまもよく思い出します。
「感じのよさは入口。任せてもらえるかどうかは、言ったことを守った回数で決まるのよ」。
この記事では、外商の現場で教わった「任せられる人」の話し方を、職場でもそのまま使える形にまとめました。
例文や言い換えの表も入れています。
明日の報連相から、ひとつずつ試してみてください。
外商の仕事は「長く任せてもらうこと」でできている
外商は、売場でお客様を待つのではなく、担当のお客様一人ひとりと長くお付き合いする仕事です。
ご自宅への訪問、店内のご案内、特別な催事へのご招待など、暮らしのご相談ごとに百貨店の窓口としてお応えします。
外商はいまも百貨店の売上を支える柱のひとつです。
日本百貨店協会の2026年8月の全国百貨店売上高概況にも、呉服は「外商向け催事等で伸長」、時計は「外商向け催事等を中心に高伸」と書かれています。
私が担当していたお客様には、親子二代で同じ百貨店を使い続けている方も少なくありませんでした。
そういう方は、一度の買い物で担当者を評価しません。
毎回の小さな約束が守られているかを、静かに見ていらっしゃいます。
感じのいい人と任せられる人は、少し違う
外商に来たばかりの頃の私は、笑顔と丁寧な言葉づかいには自信がありました。
それなのに、ある奥様から「小野寺さん、それでいつ分かるの?」と聞かれて、言葉に詰まったことがあります。
お取り寄せのご相談に「確認いたします」とだけ答えて、いつ連絡するかを伝えていなかったのです。
こちらは感じよく対応したつもりでも、お客様からすると「この件は本当に動いているのか」が見えません。
任せてもらえる人の話し方は、相手の不安を先回りして消す話し方です。
ここからは、外商で身につけた5つの型を紹介します。
「この人なら任せられる」と思われる話し方5つ
できること・できないことを最初に分ける
ご依頼に全部「かしこまりました」と答えるのは簡単です。
でも、あとから「やっぱり難しくて」と戻すほうが、信頼はずっと大きく傷つきます。
外商では、できない部分は最初に伝え、代わりにできることを添えるよう教わりました。
「ご希望のお色は、国内の在庫がございませんでした。同じ型で近いお色でしたら、今週中に2点お持ちできます。いかがいたしましょうか。」
阪急阪神百貨店の外商員の採用ページでも、ある外商員が「似合うと思えば全力でおすすめしますし、そうでないと感じたときは、やんわりと、でも正直にお伝えします」と話しています。
耳ざわりのいいことだけを言わない人に、お客様は大事なお買い物を相談してくださいます。
「いつまでに」を自分から口にする
さきほどの私の失敗は、これで防げました。
「確認いたします」のあとに、「明日の15時までにお電話します」と続けるだけです。
期限を口にするのは、自分で自分を追い込むようで最初は怖いものです。
それでも相手にとっては、いつまで待てばいいかが分かることが何よりの安心になります。
期限までに答えが出なくても、その時刻に一報を入れます。
「まだ確認中です。明後日の午前にもう一度ご連絡します」と伝えるだけで、放っておかれているという印象はほとんど残りません。
社内向けに置きかえると、こんな言い方になります。
「資料の数字を経理に確認します。今日の16時までに、分かった範囲で一度ご報告します。」
「分かった範囲で」を入れておくと、全部そろっていなくても約束どおりに報告できます。
研修でこの言い方を伝えると、配属先の上司から「あの件どうなった?と聞く回数が減った」という声をもらいます。
聞いた内容を復唱して、ズレを先に消す
外商では、ご注文の品名、サイズ、お届け日を必ずその場で復唱していました。
贈答品なら、のしの表書きや名入れの文字まで読み上げます。
一度だけ、お届け日の復唱を省いてしまったことがあります。
お客様は「来週の金曜」、私は「今週の金曜」と受け取っていて、ご自宅に伺うとご不在でした。
それ以来、日付は必ず「〇月〇日の金曜日」と、日にちと曜日をセットで読み上げています。
職場でも同じです。
上司から指示を受けたら、最後に「〇〇を、金曜の17時までに、Aさんにも共有する形でよろしいですか」と要点を返します。
合っていればそれで終わり。
ズレていれば、作業を始める前に直せます。
専門用語を言い換えて、半歩ゆっくり話す
長く同じ仕事をしていると、業界の言葉が当たり前になっていきます。
宝飾品のご説明で専門用語を続けたとき、お客様の表情がふっと止まったのを覚えています。
さきほどの阪急阪神百貨店のページには、別の外商員のこんな言葉も載っています。
「一つでも分からない言葉が生まれた瞬間、文脈が途切れ、せっかくの提案も伝わりづらくなる」。
だからこそ「お客さまの表情やうなずきの速度を見ながら、半歩ゆっくり話し、必要に応じて補足や言い換えを添えます」と続けています。
読んだとき、思わずうなずきました。
IT企業に移ってからは、社内の略語やカタカナ語を、他部署の人にそのまま使っていないかを気にするようになりました。
敬語を重ねすぎない
丁寧に話そうとするほど、「させていただきます」や「〜のほうになります」が増えていきます。
外商の先輩はこれを「言葉の厚着」と呼んで、よく直してくれました。
文化審議会が2007年に答申した敬語の指針にも、「敬語をたくさん使えば丁寧になるというわけではない」と書かれています。
相手への配慮の意識がなければ、「幾ら敬語を使っていても失礼に感じられてしまう」とも。
5つの型を、よくある言い方との比較で表にまとめました。
| 言いがちなひと言 | 任せられる人の言い方 |
|---|---|
| 確認いたします | 確認して、明日の15時までにご連絡します |
| かしこまりました(本当は難しい) | この部分は難しいのですが、代わりに〇〇ならご用意できます |
| 了解です、やっておきます | 〇〇を金曜17時までに、ですね。終わったらチャットでお知らせします |
| こちらのほうが〇〇になります | こちらは〇〇です |
| たぶん大丈夫だと思います | 在庫を確認しました。今週中にお届けできます |
敬語は「正しさ」より「相手への向き合い方」が伝わる
研修で敬語を教えていると、新人から「結局、正しい敬語を覚えればいいんですよね」と聞かれることがあります。
私は、半分は正解で半分は違う、と答えています。
9割以上の人が「敬語は今後も必要」と答えている
文化庁の令和6年度「国語に関する世論調査」では、今後とも敬語は必要だと思う人が合わせて94.9%でした。
必要だと思う理由(二つまで回答)で最も多かったのは「相手を尊敬する気持ちを表せるから」の73.2%です。
次いで「表現がやわらかく、人間関係を円滑にすることができるから」が59.3%でした。
多くの人が敬語に求めているのは、文法の正しさより気持ちの伝わり方なのだと思います。
敬語の指針が示す「相互尊重」と「自己表現」
さきほどの敬語の指針は、敬語を「人と人との相互尊重の気持ちを基盤とすべきもの」と位置づけています。
さらに、相手や場面に合わせて「その都度,主体的な選択や判断をして表現する」ことを「自己表現」と呼んでいます。
接客マニュアルについても触れています。
まだ慣れていない人の手引きとしては有効だとしつつ、どんな相手にも同じ言葉を画一的に使うと、顧客に「かえって不快な思いを与えたり」することにつながりやすい、という指摘です。
外商でも、マニュアルは最初の支えでした。
ただ、長くお付き合いするお客様ほど、決まり文句なのか、自分に向けた言葉なのかを聞き分けていらっしゃいました。
そこで新人研修では、次の順番で練習してもらっています。
- まずは基本の敬語を型として覚える
- 型どおりに言えたら、相手の名前や状況をひと言足す
- 慣れてきたら、重ねすぎた敬語を削って短くする
断る・謝るときこそ、先に結論を言う
信頼が試されるのは、言いにくいことを伝える場面です。
外商では、お断りとお詫びの言い方を特に厳しく教わりました。
断るときは「感謝→結論→代わりの案」
ご招待やご依頼をお断りするとき、事情の説明から入ると、お客様は最後まで答えが分からないまま聞くことになります。
先にお礼を言い、次に結論、最後に代わりの案を添えるのが外商での基本でした。
「お声がけいただきありがとうございます。あいにくその日は伺えません。翌週の火曜でしたらお時間をいただけますか。」
職場なら、急ぎの依頼を受けきれないときにも同じ形が使えます。
「今日中は難しいです」で止めず、「明日の午前なら仕上げられます」まで言えると、相手は次の段取りを組めます。
謝るときは、事情の説明より先に謝る
ミスをしたとき、つい「実は配送の都合で」と理由から話したくなります。
けれど相手が最初に知りたいのは、こちらが事態をどう受け止めているかです。
まず「お約束の日にお届けできず、申し訳ございません」と謝る。
事情はそのあとで短く伝え、最後に「明日の午前中に必ずお届けします」と次の約束を示す。
この順番を守るだけで、お詫びの電話がこじれることはぐっと減りました。
新人研修の教材にしている「ひと言」の本
研修では、どう言えばいいか分からない場面を集めて、言い方をみんなで考える時間をとっています。
断る、謝る、間違いを指摘する。
新人が固まるのは、たいていこの3つです。
最近、その題材探しに使っているのが、諏内えみさんが2026年9月に出した『大人がしている 気くばりのある話し方』(明日香出版社)です。
諏内さんはマナースクールEMI SUNAIの代表で、『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)の著者でもあります。
この本には、仕事、友人関係、恋愛、会食、メールやLINEといった場面ごとに、「こんなとき、何と言えばいい?」に答える101の“言葉の正解”がまとめられています。
第5章は頼む・断る・謝る場面、第6章は「『信頼される人』は、何をどう話しているのか」がテーマです。
目次には「『大丈夫』で逃げない」「相手の不安を置き去りにする言葉」「訳より先に謝罪」といった項目が並びます。
外商時代に先輩から言われたことと重なる言葉ばかりで、ページをめくりながら当時の売場を思い出しました。
内容紹介には、気くばりとは「自分を犠牲にして相手に合わせることではありません。相手を大切にしながら、自分も無理をしない。そのための『言葉の技術』です」とあります。
できないことを正直に伝える話し方とも、まっすぐつながる考え方です。
目次や内容の詳細は、『大人がしている 気くばりのある話し方』の書籍ページで確認できます。
1項目ごとに場面が区切られているので、研修の前に「今日はこの場面」とひとつ選んで話し合う使い方がしやすい一冊です。
自分の口ぐせを見直したいときにも、気になる項目から拾い読みできます。
明日から試せる、任される人のひと言チェックリスト
最後に、研修の終わりに新人へ渡しているチェックリストを載せておきます。
1日の終わりに、自分の報連相を思い出しながら確かめてみてください。
- 「確認します」のあとに、期限を言ったか
- できない部分を、代わりの案と一緒に伝えたか
- 指示やご依頼を、最後に要点だけ復唱したか
- 相手が知らない言葉を、そのまま使わなかったか
- 「させていただきます」を1文に2回使っていないか
- 期限に間に合わないとき、先に一報を入れたか
全部できなくても大丈夫です。
私も外商の1年目は、期限を言うことだけを意識していました。
まとめ
お客様や上司が「この人なら任せられる」と感じるのは、話がうまい人より、相手の不安を先に消してくれる人です。
できることとできないことを分け、期限を言い、要点を復唱する。
専門用語を言い換え、敬語は重ねすぎない。
断るときは感謝と結論を先に、謝るときは事情より先にお詫びを。
言いにくい場面ほど、話す順番がそのまま相手への気くばりになります。
敬語についても、文化庁の調査で多くの人が理由に挙げていたのは「相手を尊敬する気持ちを表せるから」でした。
正しい形を覚えたら、次は目の前の相手に合わせて言葉を選ぶ段階です。
どれも特別な才能はいりません。
言葉の選び方をひとつ変えるだけです。
外商で9年間お客様と向き合って、信頼は大きな一言ではなく、小さな約束の積み重ねでできていると感じてきました。
まずは明日、「確認します」のあとに期限を添えるところから始めてみてください。
